子どもたちの階級闘争――ブロークン・ブリテンの無料託児所から本ダウンロード

子どもたちの階級闘争――ブロークン・ブリテンの無料託児所から

, ブレイディみかこ

によって ブレイディみかこ
3.8 5つ星のうち 36 人の読者
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「わたしの政治への関心は、ぜんぶ託児所からはじまった。」英国の地べたを肌感覚で知り、貧困問題や欧州の政治情勢へのユニークな鑑識眼をもつ書き手として注目を集めた著者が、保育の現場から格差と分断の情景をミクロスコピックに描き出す。2008年に著者が保育士として飛び込んだのは、英国で「平均収入、失業率、疾病率が全国最悪の水準」と言われる地区にある無料の託児所。「底辺託児所」とあだ名されたそこは、貧しいけれど混沌としたエネルギーに溢れ、社会のアナキーな底力を体現していた。この託児所に集まる子どもたちや大人たちの生が輝く瞬間、そして彼らの生活が陰鬱に軋む瞬間を、著者の目は鋭敏に捉える。ときにそれをカラリとしたユーモアで包み、ときに深く問いかける筆に心を揺さぶられる。著者が二度目に同じ託児所に勤めた2015-2016年のスケッチは、経済主義一色の政策が子どもの暮らしを侵蝕している光景であり、グローバルに進む「上と下」「自己と他者」の分断の様相の顕微描写である。移民問題をはじめ、英国とEU圏が抱える重層的な課題が背景に浮かぶ。地べたのポリティクスとは生きることであり、暮らすことだ──在英20年余の保育士ライターが放つ、渾身の一冊。
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2008~2010年と、2015~2016年の2回、英ブライトンの、困難を抱えた家庭の子どもや移民の子どもの集まる託児所で働いた著者の体験/観察記。「底辺託児所と緊縮託児所は地べたとポリティクスを繋ぐ場所だった(p.284)」と書く著者は、一貫して「地べた」の人間として、「地べた」の人々を見つめ、酷薄な政治に憤る。読みだしてすぐ、経済的にも精神的にも追い込まれて子どもを里親へと手放したシングルマザーが「あの子は大きな、立派な家に住んで、いい学校に通っている」とゆっくりと言ったという箇所(p.26)で泣きそうになる。「毎日が驚きと、怒りと、目の前で起こっていることへの信じられなさと、こみあげる嫌悪感の連続で、そのくせほんの時折だったとはいえ、こんなにきれいなものは見たことがないと思う瞬間に出くわした(pp.281-282)」という著者の述懐は、読者である私の感想でもある。それほど、本書に描かれるイギリスの「アンダークラス」の現実はつらく、悲しく、醜く、不条理に満ちているけれど、ハッとするほどの人間の尊厳や美しさが垣間見られる。それは著者のまなざしの鋭さと優しさゆえだろう。印象的な箇所。13歳児に対する保育士の配置基準が、イギリスだと一対八なのに、日本では一対二〇であるという話を著者から聞いたイギリス人の「一対二〇って何それ。羊飼いかよって(p.113)」というセリフ。笑ってしまった。ついでに日本の学校のクラス定員を聞かせてやったらさらに驚くだろう。2フードバンクで「棚に並んだ食料を見て、我を忘れて叫び出した人や、ジャガイモを握りしめて泣き出した人もいた。こんな親の姿は子どもには見せないほうがいい(p.178)」という箇所。ケン=ローチ監督の傑作「私は、ダニエル・ブレイク」の一場面は現実そのものなのだ。3「すごいお坊ちゃん育ち」だがなぜか「ドロップアウト」して著者の職場でヴォランティアをしている男性が、「貧しくて、ハンディキャップを背負った子どもたち」のことが「わからない」ので、触れ合うのが辛いと著者にぼやく場面(p.208)。別に私は「お坊ちゃん育ち」ではないけれど、階層間の意思疎通の困難は想像はできる。

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