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サミング・アップ (岩波文庫)

, モーム

によって モーム
4.4 5つ星のうち 14 人の読者
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内容(「BOOK」データベースより) 劇作家としても小説家としても功成り名遂げた六四歳のモーム(一八七四‐一九六五)が、自分の生涯を締めくくるような気持で書き綴った回想的エッセイ集。人間、人生、文学、哲学、宗教等の多岐にわたる話題が、モーム一流の大胆率直さで語られる。
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人間を観察して私が最も感銘を受けたのは、首尾一貫性の欠如していることである。首尾一貫している人など私は一度も見たことがない。同じ人間の中に到底相容れないような諸性質が共存していて、それにも拘わらず、それらがもっともらしい調和を生み出している事実に、私はいつも驚いてきた。同一人物の中に両立できぬように思える諸性質がどうして共存しうるのか、何度も思案してみた。私の思いつく唯一の説明はこうだ。人間はだれしも自分はこの世の中で類のない存在であり、特権があるのだという確信を本能的に有している。このため、自分のすることは、他人がすればどれほど誤ったことだとしても、自分にとっては、当たり前で正しいとは言わぬまでも少なくとも許されるべきだと感じるのだ。正常というのはめったにない。正常というのは、一つの理想に過ぎない。複数の人間の平均的な特徴の数々を総合して作り上げた一つの絵姿にすぎない。身勝手と思いやり、理想主義と好色、虚栄心、羞恥心、公平、勇気、怠惰、神経質、頑固、内気など、これらすべてが一個の人間に存在し、もっともらしい調和を生み出していることもありうる。これが人間の真実なのだと読者に納得してもらうには長い年月を要した。あたかも人間が首尾一貫したものであるかのように受け取るのは、人類にとって自然な先入観かもしれない。確かに、ある人について考える時、白か黒かを決め、あいつはとびきりいい奴だとか、あるいは、とんでもなく悪い奴だとか断言して、疑問を払いのければ気楽である。国を救った英雄がけちん坊かもしれないとか、我々の意識に新しい広がりを与えた偉大な詩人が俗物かもしれないとか、そんなことを発見するのは不快である。我々は生来自己中心的であるから、人を判断する時、自分との関係で見がちである。人が自分にとってある性質の人物であることを望み、実際、自分にとってはその性質がその人物のすべてなのである。それ以外の性質は用がないので無視するのだ。人間は全く同じ人など一人もいない、どの人も独自である、というようなことをよく本で読む。それはある意味では真実だが、誇張されやすい真実だ。実際には人間は大同小異である。比較的少ない数のタイプに分けられる。同じ環境は人間を同じようなタイプに作る。ある特徴が分かれば、他の特徴は推察可能である。古生物学者のように骨一本から動物全体を復元できる。人間というものは、誰しも相互に矛盾する複数の分身を束ねた存在かもしれないが、作家、画家は特にその事に気づいている。一般人の場合は、送っている人生によって分身の一つが支配的なものとなり、意識下での心理を無視すれば、最後には一つの分身が全人格になる。ところが、画家、作家、聖人は常に自分の内奥を覗き込み、新しい分身を探す。同じ自分の繰り返しを嫌い、われ知らず、一つの分身にならぬように努力するのである。芸術家が自己矛盾のない、首尾一貫した人間になる機会はない。

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